そびえ立つツリーに、光が踊る。
売れ残ったギフト商品が、値下げされて店先に並ぶ。
今日は、クリスマス・イヴだ。
「なんだか楽しそうだね」
トムが、何かを含んだような笑顔でこちらを見ている。
「だって、ねえ、クリスマスには、楽しまなきゃ」
わざとらしく腕を広げて見せると、トムは喉に引っかかったような笑い声をあげた。
「クリスマスには楽しまなきゃ、か!」
蔑んだような口調に、ぼくは少し眉をひそめる。トムは構わず、通りをぐるりと見まわしながら言った。
「こんなにきらきら飾り付けまでして、商売熱心だよねえ」
「・・・まあ、そうだけど」
「クリスマス精神だなんて言うけど、本当はみんなクリスマスを都合良く解釈して、自分のしたいことをしようとしているだけじゃないか。私が生まれた日には毎年七面鳥を食べなさい!なんて、まさか神様が言ったわけじゃない」
店先の店員が、ギフトの買い忘れに注意を呼びかけている。
「でも、したいようにするのが悪いことだなんて、ぼくはちっとも思ってやしないよ。うん、寧ろ、みんなが自分自身に対して正直になるのはいいことだし、それが問題なんじゃなくて、つまり、クリスマスにかこつけないと、自分の思う通りに行動できない、というみんなの現状こそが問題なんだよね。そこに商業主義的思想が絡んでくるからややこしいんだけど、それだって要はお金が欲しい、っていう個人の望みから始まっているわけだし・・・」
トムの話はずっと続いて、ぼくにはだんだんよくわからなくなった。浮き立つようなクリスマスソングと、宙を舞う色とりどりの光に、再び心を奪われる。
「・・・だから、エド、ちょっとかがんで」
都合の良い解釈だとしても、クリスマスは楽しいけどなあ。
そんなことをぼんやりと考えていると、いきなり自分の名前が聞こえてきて、ぼくはぎょっとした。
トムはと見ると、笑っている。話を碌に聞いていなかったことを糾弾されるわけではなさそうで、ぼくは少し安心した。
「・・・?かがんで、って、」
「いいから」
なんで、と出かかった言葉を飲み込んで、素直にトムの言う通りにする。
「もうちょっと」
トムと目線が合う位置まで身をかがめると、トムはようやく満足そうに笑った。
顔を覗かれて、息が止まる。鼻先がくっつきそうになるくらい近くに、トムの顔があった。
「・・・トム、どういう、」
「メリークリスマス、エド」
ぼくの疑問を封じ込めるように、トムの唇がそっとぼくの口にふれた。
トムの体温が、体を満たす。
けれど次の瞬間にはトムはさっと離れて、再び早足に歩き出した。
何事もなかったかのように歩くトムの背中を、ぼくはしばらくぼんやり見つめた。それから、我に返って、追いすがるように大きく歩き出す。
上手く息ができない。頭がくらくらする。
「・・・トム、」
「だって、クリスマスだからね」
振り返ったトムの顔は、少しだけひねくれた笑いを含んでいた。その上で、赤や緑の光が踊る。さっきまでと、何も変わらない。
ぼくはますます混乱して、疑問のためにため込んだ息を、ほう、っと吐いた。
「・・・うん」
腑に落ちない返事を返したぼくに、トムは声をあげて笑った。
「つまりね、結局はぼくも、みんなの中のひとりに過ぎない、っていうことさ」
くるり、と踵をかえしたトムの背中が、だんだん小さくなっていく。
通りは明るい。
デパートの入り口から、暖かい空気がぼう、と洩れている。
今日は、クリスマス・イヴだ。
ぼくはもう一度トムに追いつくために、小走りに駆けだした。
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ちょっと気が早いですが、季節は先取りが基本、ということで。 珍しく明るめの話です。相変わらず中途半端ですけどね!!エドが鈍すぎるなあ。