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「もしかして、僕を騙して、僕になりすまそうとしてるの?」
「何の意味があって俺がそんなことしなくちゃならないんだよ」
「そんなの知らないよ。どうせ警察から逃げるためとかだろ」
 
ピートは投げやりに言い放った。警察から逃げないといけないとしたら、それはお前の方だろ、と出掛かった言葉をカールは飲み込む。こんなところで言い合いをしても始まらない。
 
「ピート、何があったのか知らないけど、落ち着いて、よく考えろよ。変な妄想はやめて、俺を見るんだ」
 
カールの言葉に、ピートはすっと視線を上げた。濃い茶色の瞳が、カールの青いそれをとらえる。ピートの口元にゆっくりと笑みが広がるのを見て、カールはなぜか落ち着かなくなった。
 
「・・・何なんだ」
「お前が見えるよ、カール」
 
ピートは夢見るような口調で言った。その姿は、白すぎる蛍光灯の光を反射して、青く輝いていた。
 
「お前が見えるってことは素晴らしい。だけどこれは全部僕の幻想で、僕は夢を見ているだけかも知れないんだ。だから残念なことに、僕が目を覚ましたら、カールはいなくなってしまう」
 
頭を抱えたくなった。意味のわからない話を聞かされ続けたせいで、こちらまでおかしくなってしまいそうだ。
 
「幻想なわけないだろ!俺はここにいるんだから」
 
言いながら、涙が滲んでくるのが自分でもわかった。そのことで、カールはますます混乱する。理不尽だった。こんなことが起こって良いはずはない。そんなカールに、ピートは品定めするような目を向けた。
 
「じゃあ、証明してよ」
「・・・何を」
「カールが幻想じゃないってことをだよ」
 
ピートは急に立ち上がった。目の前に立っていたカールの肩を捕まえる。今までとは打って変わって、ピートがカールを見下ろすような格好になった。そのまま身をかがめて、そっと唇を重ねる。
 
カールは目眩がした。こんなことが何の証明になるのかさっぱりわからない。けれどそれ以上に複雑な疑問が体に絡みついてきて、ピートを突き飛ばすことはできなかった。
 
どうして、とカールは考える。どうして、こんなことになったのだろう。今日一日で何か間違ったことをしたのなら、やり直さなくてはならない。今なら、まだ間に合うはずだ。
 
 
カールは、人通りの少ない商店街を抜けて、家に帰ろうとしていた。深夜までかかるはずだった仕事が、予定外に早く終わったのだ。きりきりと冷えた空気が、背骨に響いていた。
 
曲がり角では、募金箱を持った中年女性が、クリスマスの奇跡について語っている。前を通ると、聖母のような微笑みをカールに向けた。
カールはポケットをまさぐり、出てきたコインを募金箱に放り込んだ。募金など趣味ではないが、クリスマスなのだから、そのくらいの慈悲心は持っても良いはずだ。
 
これからどうしようか、とカールは考えた。友達は皆、パーティに出払っている。遅れて行くのは気が進まなかった。
けれど、せっかく店長が気を遣ってくれたのだ。その親切を無駄にするというのも、失礼な話ではないか。カールは時計を見た。急いで家に帰って仕度をすれば、間に合わないことはない。友達は、きっと歓迎してくれるはずだ。小走りに駆けだす。
 
ああ、とカールは思った。走ったりすれば、またあのゴミ袋に蹴躓くに違いない。外灯は切れかかっていて、通りは暗いのだ。
 
けれどカールはそんなことは気にも懸けず、暗い道を走って、案の定ゴミ袋に躓いた。甘ったるい臭いが広がる。古くなった林檎のような臭いだ。
 
再び目眩を覚え、カールは夢中でピートの肩をつかんだ。顔を覗くと、茶色い丸い目が相変わらずカールを見据えている。口元には、かすかな笑みが浮かんでいた。
カールは目を閉じる。しかし、通りを走っている自分自身の姿を、まだはっきりと捉えることができた。走りながら、鞄の中をまさぐる。鍵を探しているのだ。
 
「なあ、ピート、」
 
そんな全てが手に取るようにわかって、カールの体は凍りついた。そして、先刻からずっと浮かんではいたのだけれど、必死に頭の中で打ち消していた疑問を、やっとのことで絞り出す。
 
「俺はいったい、誰なんだ?」
 
けれど、ピートは笑ってそれには答えない。
 
「メリークリスマス、カール」
 
まるでベッドに横たわっている自分自身を眺めるような気持ちで、カールはベッドに横たわっていた。
目を開けると、外はまだ暗いのだろうか、それとも、朝の光がカーテンの隙間から差し込んでいるのだろうか。しかし、どちらでも構わない。
 
結局のところ、家に帰って眠ることより他に、素晴らしいアイディアなど、カールにはひとつも思い浮かばないのだ。
 

 

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意味不明です。すみません。書いている途中で自分でもさっぱりわけがわからなくなったので、意味不明を貫きとおしてしまった。                                                                                                                                                                                         ちょっと硬めの文章を書こうとして、撃沈しました。才能がないということでしょう・・・!

 

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