世界の終わり

 

を開いて、叶いそうもない夢ばかり見ている。
とても現実的なのに、あまりに些細なことだから、誰もその可能性にすら気付かないような、そんな夢を見る。
 
 
たとえば、今日世界が終わってしまうとして。
その時彼のすぐ隣にいたいだなんて、そんな高望みは、僕はしない。
だけど今日は空がすごく綺麗だから、目を瞑っていることなんてできそうになかった。
だからせめて、神さまにお祈りをしようと思う。
 
ああ、神さま、どうか、お願いです。
 
 
 
 
「お腹すいたなあ、」
 
そうこぼしてドムは、半歩後ろを歩く僕を振り返った。
ゆるく流れる景色に、青い目が澄んでいる。今日は風がやわらかだ。
そんなことを考えて、僕は少し笑ったかも知れなかった。
ドムが、不思議そうな顔でこちらを見ている。
 
「何が可笑しいの、マット」
 
その言葉に、僕は意識的に笑顔を作りなおした。口元を持ち上げ、小さく笑い声をあげる。
それから、「ドムが朝からお腹すいたなんて言うから、」と説明した。
 
「仕方ないだろ、昨日の夜から何も食べてないんだから」
 
不服そうに言う。
 
「この前財布を落としたって話、しただろ?だから、お金がないんだ」
 
ドムのため息は本物みたいに聞こえたけれど、そこに微かな笑みが含まれていることに、僕はちゃんと気づいていた。
僕たちは、お互いの前で泣きごとを言ったりなんか、決してしない。
 
「だから昼御飯を奢って、と言いたいんだろ。全くしょうのないやつだなあ」
 
僕が言うと、ドムは期待に満ちた笑顔をこちらに向けた。
 
「えっ、本当にいいの、マット!」
 
「今回だけはね」
 
肩をすくめて言ってやると、ドムは歓声をあげて、僕の肩に手を回した。
 
「わあ、マット大好きだよ!」
 
 
僕もドムが好きだよ。
 
 
そう口にすることができたら、どれほど楽になるのか知れなかったけれど、その言葉は呑み込んで、かわりに、単純なやつ、と呟いた。
 
結局、僕が素直ではないというだけの話なのだろう。
 
けれど、そんなふうに、まるで冗談みたいに口に出したりして、僕は自分の気持ちを傷つけたくなかった。
だってそれは、川が流れるみたいに滔々と僕の体の中を流れて、僕を形作り、両の足をここに据え付けているのだから。
 
生温かい風が吹いた。それがドムの明るい髪の毛を揺らすのを、僕は見ていた。