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「・・・でもさ、昼御飯なら彼女に作ってもらえばよくない?」
 
少し早めの昼食を食べ終えて、ぼんやりと頬づえをついているドムを眺めながら、僕は言った。
ドムは目を見開いたけれど、どうか何気ない戯れに聞こえたのであって欲しい。でなければ、上ずる声を抑えた僕の努力が、水の泡になってしまう。
 
「だから、そんなんじゃないってば」
 
ドムは怒ったような声を出したけれど、それが本気ではないことは、傍目にも明らかだった。
俯けた口元には、やっぱり笑みが浮かんでいる。
 
「でも、好きなんだろ?」
 
胸の内に苦い感情が広がるのを感じながら、僕は投げやりに口にした。
どうしてそんなことを尋ねなければならないのか、自分でもわからなかった。
 
望むような答えが得られないことくらい、充分わかっている。そのせいで自分がどんな酷い気持ちになるか、それが想像できないわけでもない。
それなのにわざとこんなことを言ってしまうのは、きっと僕の厄介な自尊心か何かのせいで、それは僕が素直にドムに気持ちを伝えられないことにも、幾分関係があった。
 
ドムは答えない。かわりに、
 
「何だよ、昼御飯奢ったからって調子に乗るなよ」と言った。
 
「へえ、そんなこと言うならもうドムなんか知らないからな。財布をなくしたなんて自業自得なんだし、勝手にすればいい」
 
冗談口調で僕が言うと、
 
「あああごめん、そんなに怒るなよ!マットがいるから生きていられるんだよ僕は!」
 
とドムは泣き声を出した。両眉が大袈裟に下がっている。
 
「嘘つけよ」
 
ドムの軽々しい言葉に傷ついたはずなのに、同時に心がわき立つような感覚を認めて、僕は少し腹立たしくなった。
どんな形にせよ、ドムから信頼を寄せられるのは、やっぱり嬉しかったのだ。
そうしているうちに、ドムは僕のことをもっと好きになるんじゃないか。そんな考えが僕の中では渦巻いていて、邪まで浅ましいから大嫌いだった。
 
正面に座っているドムを見る。先ほどとはうって変わって、何かを真剣に考えているように見えた。悪い予感がさっと影を投げたのと同時に、
 
「ほんとに好きなのかな」
 
とドムが呟いて、僕は空気が揺らぐのを感じた。
 
「彼女のこと考えてたら、自分でもわけがわからなくなっちゃうんだ。ねえマット、僕どうしたらいいと思う?」
 
知らないよ、と僕は言った。もしかすると、突き放した言い方になったかも知れない。
ドムは少し不思議そうにこちらを見たけれど、すぐに笑顔になって、「だよねえ」と言った。彼にとって、僕の反応なんか大した問題ではない。
 
「僕もちょっとはしっかりしないとなあ。・・・あ、お昼ほんとにありがとう、マット」
 
そう言ってドムは立ち上がった。その姿を、ぽっかりと空いた目の前の空白に描き出そうとして、途中でやめた。