何の用事があるのかよくわからないけれど、デーモンが突然僕の家にやって来たのが2時過ぎのことで、それからソファに座って、午後3時キックオフのサッカーの試合をぼんやりながめ始めてから、もうかれこれ30分以上経つ。
・・・厳密にいうと、これはまちがっている。
というのは、「ぼんやりながめ」ているのは僕だけであって、デーモンの方は、まるで選手の一挙手一投足を見逃すまいとするかのように、身を乗り出してTV画面に食い入っているからだ。
青い目が興奮のために輝き、頬にはうっすら赤みがさしている。
そこに、画面に映し出されたさまざまな色が反射する。
たとえば、緑いろのピッチ。真っ青なユニフォーム。
僕は、サッカーはナイトゲームの方が好きだ。
スタジアムに灯る照明がきれいだし、選手のまわりに十字型の影ができておもしろい。
つまり僕は、サッカーにあまり興味がない。
だから、僕がさっき、サッカーの試合をぼんやりながめている、といったのも、ちょっとだけ嘘になる。
僕は、サッカーを観ているデーモンをみているのだ。
「・・・ねえ、」
でもそんなのはいたたまれないから、僕はコーヒーを呑み込んで、デーモンに声をかけた。
デーモンは石鹸のにおいがして、そのせいでコーヒーがまずくなったように感じた。
いいにおいのものが、必ずしもおいしいとは限らない。
「なになに?」
画面から目を離さずに、デーモンは言う。
長いあいだ黙っていたせいで、言葉が内がわを向いてしまったような声だ。
「・・・サッカーって、おもしろいの?」
「もちろん。今年は特にね!」
本当は、僕はビールが飲みたい。
でもそれは、昼間から酔っ払うべきではない、という僕のポリシーに反することだ。
つい一週間前、僕はそのポリシーを作ったばかりなのだ。
「どうして?」
「うーん、だって僕はチェルシーを愛しているし!」
ここでようやくデーモンは笑顔になって、かがんでいる体を後ろへ反らせた。
そして、ソファの背もたれに深く寄りかかって、この30分で初めて僕の方を見た。
それから、ふざけたみたいな口調でつけ加える。
「グレアムの次にね!」
デーモンは体勢をもとに戻し、再びサッカーに熱中し始める。
僕は息を吐いて、石鹸のにおいを体いっぱいに吸い込んだ。
だから、デーモンが何の用事なのかわからない、とはじめにいったのも、本当は嘘だ。
僕には全部、ちゃんとわかっている。
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なんという中途半端。薄暗い雰囲気をやめようと思ったら、いらないところが長くなった。
いや、むしろいらないところしかないけど!キャラ違うし。ということで、すみません!