everything’s in its

 

 

タジオにやって来たグレアムは、朝からむっつりと不機嫌だった。
眉間に皺を寄せて押し黙り、どうかするとため息を吐く。
具合が悪いのか、と尋ねると、二日酔いで頭が痛いのだという。
「どうしてそんなに飲んだりしたんだ」という質問には俯いて答えなかった。
これだけで、だいたいの察しはつく。
 
 
次に、デーモンだ。
デーモンはスタジオで俺の姿を見るなり、普段の3倍もの愛想の良さであいさつしてきた。
くだらない冗談に声をあげて笑い、意味もなく俺の肩を叩く。
いつもならべったりのグレアムとは、目を合わせようともしない。
こうなると、全ては誰の目にも明らかになる。
全くもって迷惑な話ではある。
せめて何もなかったふりでもしてくれたら、こっちだってもう少しは上手く気付かなかったふりができるというものだ。
 
 
もう帰る、とグレアムが言い出したのは、デーモンがパイロットについてのくだらないジョークを披露している最中だった。
 
「頭が痛くてギターが弾けない。それにここはうるさいし、気分が悪いよ」
 
(隣の部屋では、デイヴが親の敵とばかりにドラムを打ち据えていた。)
それじゃあ帰った方がいいな、とデーモンはひどくぞんざいな言い方をした。普通ならあり得ないことだ。
グレアムは鞄を抱えて、足早にスタジオを出ていく。
デーモンはパイロットのジョークの続きを話し出したが、残念なことに俺はさっぱり聞いていなかった。
 
 
「なあ、お前ら、何かあったの?」
 
単刀直入に訊くと、デーモンは一瞬ぎくっとなった。けれどすぐにまたへらへらした笑いを浮かべる。
 
「何かって、何のことだよ、アレックス」
「知るかよ。俺にわかるわけないだろ」
「それじゃあ俺にもわからないな。アレックスのわからないことが俺にわかるはずない」
 
ばかばかしい。
 
「グレアムは二日酔いだってさ」
「わかってる。今日も昨日も明日もあいつは酔っ払いさ。俺たちはみんな酔っ払いなんだよ、知ってたかい?」
「覚えておくよ。それで頭が痛いんだって、」
「頭なら俺だって痛い」
 
デーモンの口調にはっきりと苛立ちがあらわれて来て、俺は何故かしてやったりと思う。どうしてかはわからないけど。
 
「どうせまた喧嘩したんだろ」
 
俺が言うと、デーモンは鼻を鳴らして返事をしなかった。
 
「俺も帰っていい?なんかやる気出ないし」
「やめろよアレックス、お前とまで喧嘩したくない」
 
俺の手に缶ビールを押しつけて、デーモンはため息を吐く。
 
「やっぱり喧嘩したんだ」
「別に俺のせいじゃない」
 
デーモンはこういう奴だ。臆病で卑怯で最低。
絶対に謝らないし、自信たっぷりのくせにすぐいじける。
それでグレアムを悲しませたりするのだから、俺としては腹立たしくて仕方がない。
 
「じゃあグレアムのせいってことか?」
 
俺が意地悪く尋ねると、デーモンは急激に勢いを失った。
 
「・・・わからないけど」
「わからないって、何が」
「何がかはわからないけど、」
「けどわからないってことはわかる?」
「・・・わからないんだ」
 
珍しく自信を失くしている。俯いて、こちらを見ようともしない。
 
 
 
ばかなやつ。
グレアムがお前のことしか見ていないことに、どうして気付かない?
どうしてそんな悲しそうな顔をするんだ?
 
 
全くもってばかなやつだ。俺だってグレアムを愛しているのだから、そう言う権利はあると思う。臆病で卑怯で最低。
今すぐ殴ってやるべきだ。
けれど。
 
 
「慰めてやろうか?」
わざとらしく両腕を広げて抱き締めると、デーモンは思ったほど抵抗しなかった。
俺の方が何となく気まずくなって、ぞんざいに腕を離す。
 
 
けれど、すぐにでもデーモンを殴ったりしないのは。
それは俺の方がもっと、臆病で、卑怯で最低な奴だからだ。
 
 
「グレアムに謝れよ」
デーモンは返事をせずに、ビールの缶を押しつぶした。
俺がデーモンだったとしても、同じようにするだろう。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
なあ、
あいつがこんなにもお前のことを愛しているのでなければ、
俺たちはきっと、
親友になれたかも知れないのに。