鼻の奥がつん、と冷えるから、それが痛みに変わらないように息を止めた。
窓を開けて、両手を外に差し出す。
大きく息を吸うと、雨の匂いだなあ、
なんて。
そんなことはぼくの心に何の変化ももたらさない。
だってすべては不透明で、乾いた響きを残すばかりだ。
屋根を打つ雨音に耳を澄ましながら、ぼくは水滴に濡れた指先をそっとたたんだ。
雨だって、ほんとは全部いろがあるんだよ。
言葉は言う。ぼくのことば。
けれどそれはぼくの意味するところを、半分も伝えてくれはしない。
「いろがあるって、何に?」
いつの間にかすぐ隣にジョニーがやって来て、曇ったガラスを引っかいている。
それはネズミ。それは猫。涙のような水滴のすじが、足先から流れて窓枠を浸す。
「雨だよ。雨が透明だなんて、まったくおかしな話じゃないか」
「そうかな」
ジョニーは興味なさそうに言って、人差指で落書きを塗りつぶす。
そして大きく伸びをすると、ぼくのすぐ後ろの椅子に座った。
ジョニーの目はぼくを見ていない。別にそれでも構わない。
ぼくはジョニーの目を見て、そこに映るいろを、ぼくの世界に描き出そうとしている。
青、それはぼくらの意図したとおり。
そして赤、よく晴れた日に、目をぎゅっと閉じたときの瞼の裏のいろ。
それから黄色、むらさき、水色、そしてそれから。
ああ、だけど、そんなことがどうしてぼくにわかるだろう?どうして。響きは乾いている。
だってすべては、にせものでプラスチック製なんだぜ。ぼくの友達が言っていたよ。きみも聞いたことがあるだろう?ぼくらは、重力に勝つことなんてできない。
「じゃあさ、これはなに色?」
ジョニーが言って、水滴のついたままの人差指をぼくの目の前に差し出す。
そうだねえ、これはきっと、みどりいろさ。
それは、どんな色?
きっと、ぼくたちみたいないろさ。
ああ、だけど、ぼくの言葉は、ぼくの意味するところを半分も彼に伝えはしない。